携帯電話とハルちゃん -女の子の子育て-

中学生から携帯電話を使うようになって言葉が成長したハルちゃん。コミュニケーションの道具としてハルちゃんのたすけになり、学習や社会生活の自立でもたすけになった事例を沢山お話していただきました。

マツイさんとオオタケさんのプロフィール

マツイさん
ダウン症のある23歳(2019年1月時点)の女の子ハルちゃんとミカちゃん(お姉ちゃん)のお母さん。シングルマザーになりヘルパーの資格を取得。現在、放課後デイサービス管理者、特定非営利活動法人えがおさんさんの理事となる。
ハルちゃんは、区立認可保育園→区立小学校支援学級→区立中学校支援学級→都立特別支援学校高等部→カレッジ早稲田→週3日福祉作業所(B型作業所)週2日一般就労をしている(2021年2月現在)。

オオタケさん
ダウン症のある8歳(2019年1月時点)の女の子マリちゃんのお母さん。仕事と子育てに奮闘真っ只中。思春期を迎えるにあたり女の子の子育てに不安。
マリちゃんは、新宿区こども総合センター 発達支援コーナー「あいあい」の親子通所グループ→私立認可保育園→都立特別支援学校小学部に在学中(2021年2月現在)。

中学生から携帯電話を使うようになり言葉が成長した

マツイ 成長という意味で言うと、携帯電話はすごいですよ。携帯電話という文明の力でハルは成長しました。言葉も増えました。それまでなかなか話せなかったのが、携帯電話というものを本人が使うようになって、自分の言葉を打って人に伝えるようになるの。

ハルちゃんの場合は、突然人に何か聞かれると答えられなくなっちゃうみたいなんです。例えば言われたことに対してちょっと辛かったりすると、もう言葉が出なくなっちゃって「もういいわかった」ってなっちゃう。でも、その後すーーーっごい長いメールが来て「あの時のあのママの言い方はとてもきつくて、自分はもういやだ」みたいなことが書いてあってね。

オオタケ あぁ…コミュニケーションの手段としてすごく良かったんですね。

マツイ すごく良いと思いました。携帯電話を使うようになって、ハルもすごい成長した。メールでは自分の気持ちの伝え方がすごくたどたどしい時もあるんですけど、すごくわかるんですよね。伝えたい内容が。文法が合ってないこともちょっとあります。でも、ハルが言いたいことはすごくわかる。何かあるといつもメールで来るの。

オオタケ 携帯電話はいつ持たせましたか?

マツイ 中学校入った頃ですね。その当時はガラケーだったんですけど、すごい使いこなしていました。生年月日を調べていて「ママ、これ1545年まで戻れるんだけど知ってる?」とか言っていて(笑)

自分の声を録音してみたりとか。たまに変な有料サイトに入っていて、それは注意したらもうその後は入らなくなったな。今は上手に使っています。

あれを使うようになってから「伝えていいんだ」ってことがわかったみたいで、すごく自分の気持ちを伝えるようになりました。それからすごいしゃべるようになりました。

やっぱり大事だなと思います。例えばね、自分の気持ちを伝える手段がすぐ言葉で出る子はいいんだけど、親って追い詰めるじゃないですか。その時はやっぱり。

オオタケ 親の方が言葉が達者ですもんね。

マツイ そうなの。そうすると、むこうもつまっちゃって言えなくなっちゃって、言葉を飲んじゃうんですよ。でもそれを吐き出す手段というのがこの携帯で「さっきのは謝ってほしいくらいですよ」とメールが来る。「そういう気持ちだったんだね、ごめんねぇ」と返事するわけですよ(笑)

今でも、例えばメールが来ているから電話すると「メールでください」ガチャッって切られちゃう(笑) 言葉じゃだめ、メールじゃないと(笑) ハルは「文章を読んで落とし込みたい」みたいなのがあるので。だから私もなるべくひらがなを使う形にして、ハルの気持ちに沿うように返信します。今でも「これをやめたい」みたいなことを伝えたいと「こういう理由で辛いです」ってながーーいメールが来ます。

だから今の子達は産まれた時からスマホがある子達だからいいだろうなぁと思います。

ハルは中学校くらいまでは、話してはいたけれどどうしても不鮮明だったので、私が聞き取れないことも多々あったんですよね。でもお姉ちゃんがしっかり聞き取っていて、すごく助かっていました。姉妹がいることで私はすごい助かったの。年が近いお姉ちゃんだとわかるみたいで「これなんて言っているんだろ?」とお姉ちゃんに聞くと「ハル、もう一回言ってごらん」「◎△$♪×¥&%#!」「うん、なるほど。お風呂入りたいって言ってる」そんな感じで(笑)

高校生からは携帯電話が社会生活の自立の道具に

マツイ 高校生くらいになったらある程度携帯も使えるし「携帯で自分で調べてみな」と自分で調べるようにさせていました。支援学校は高校になると就労実習があるじゃないですか。一般就労を希望していたので、高校の時から実習では一人で東武東上線の板橋まで3週間通いました。その後違う所にも実習に行ったのですが、その電車も一人で行かせました。最初の2日だけ一緒に付いて行ってあげて、ハルも心配だと、ヘルパーさんに「今日は実習だから行き方を覚えたいから一緒に行ってください」って頼むの。

オオタケ そうやって自分で頼むんですね。

マツイ そう。今はナビも自分で使えるようになりました。今日は北池袋でアルバイトなんですけど「帰りはどうやって帰って来るかわかってる?」って聞くとスマホで調べていました。だからスマホって便利よね~ ほーんと便利!自分で時間も調べられるし、あれあると本人も安心。どこでもつながれるし。

ハルは高校に行くのに電車を2本乗るんですよ。大江戸線と丸の内線。
中3の3月に、東日本大震災があって、4月から高校に電車通学するのに、計画停電をしていたので、電車はほとんど暗闇の中でのスタートでした。駅の電光掲示板にも何も出ない。携帯があるからそんな中でも通えてね。すごいですよ。

オオタケ 初めて一人で電車で出掛けたのは何年生ですか?

マツイ 中学校に入ってすぐですね。中学校に入ったらバス通学させようと思ったんですよ。そしたら入学式の日に大雨になってバスが遅れて、それでバスを待っていたら入学式に遅れそうになり、それがいやだったみたいで「二度とバスは使いたくない、電車がいい」と言って。だから西武線が近かったから、電車で3駅乗って通っていました。

オオタケ なんかまだマリちゃんでは想像つかないや(笑)

マツイ でもヘルパーさんを使えばいいじゃない。

オオタケ ヘルパーさん使って…みようかな…。

マツイ あと一番すごいなと思ったのは携帯を使って出先でのトラブルを対処できること。

例えば電車で人身事故があって電車が止まってしまった時に携帯があることで落ち着いて私に電話をかけるわけ。「みんなはどういう行動取ってるの?」と聞くと「みんなはウロウロ動いている」「でもハルは動けないからそこで待っていなさい。あと何分って言っている?」「10分って言っている」「じゃぁ待っていなさい」って。

東日本大震災の時もね、余震が1か月くらいあったじゃないですか。だから電車に乗っていて止まったら、どこの駅から歩いて帰るか、どこの駅からは戻ってくるのかを最初に決めたの。歩いて帰ってくる方法も教えてあげて。あと帰り方がわからなくなった時は「私わからないから連れてってください」と言いなさいと教えた。そういう時は変な人は絶対いないから大丈夫だから、そういう時は大人を捕まえて言いなさいって。ああいう危険な時は教えないといけないなと思って。本人も携帯があると安心みたいですよ。これがあればママに通じると思って安心して遠出するの。

オオタケ 携帯は大事ですね。

マツイ そうよねぇ。字もすごい携帯で覚えています。変換もできるし。わからないことがあれば調べられるじゃない。

オオタケ いい時代ですよね。

マツイ いい時代だと思うよー。この子達のコミュニケーションにはうってつけの機械よ。

オオタケ そう思いますね。ただ目が悪くなってきたので目が心配。目に優しいスマホができればいいのに。

マツイ そういう時代も来るような気がしますね。大事だよね。今の子は小さい頃からスマホを使いこなしちゃっているからね。

区切り線
  1. ハルちゃんの子供時代
  2. ヘルパーさんとハルちゃん
  3. 電話携帯とハルちゃん
  4. ダウン症のある女の子の子育て
  5. マツイさんの仕事
  6. マツイさんが考えるダイバーシティとは
区切り線

※この対談は2年前(2019年1月)に行いました。現在は年齢等の状況が変化しています。予めご了承ください。