女の子の子育ては、男の子とは違う気をつかうことが様々ありますが、それはダウン症があっても同じです。ハルちゃんの子育てで経験してきた「女の子に必要な支援」をお話していただきました。
ある程度の年齢になったら、親が社会モラルを教えるのは大事なこと
オオタケ パパに対してはどうでしたか？
マツイ パパの面倒をみるのはすごい好きだったの。帰って来たら靴下脱がせてあげたりね。お世話好きでした。
オオタケ 今困っていることがあるのですが、マリちゃんはパパのこちょこちょがよほど気持ちいいのか、お腹さらして「パパこちょこちょして」って行くんです。マリちゃんは8歳だけどまだ赤ちゃんっぽい。だけど私は、パパにそれはちょっとNGだな…と思うんです。そういう時にまりちゃんに「人前でやっちゃだめだよ」とか「そんなことしていないで早く服着なさい」って言ってみたり、曖昧にしているんです。
マツイ パパが好きなんだし、気持ちいいのは人間の欲なので、絶対とめられないじゃないですか。ただ場所をわきまえないとつかまっちゃう。ある程度の年齢になったら親は社会のモラルを教えないといけないと思いますよ。
高校卒業後は、カレッジがキラキラと輝く青春の場
オオタケ そうですよね。ハルちゃんのそういった異性のことで何かエピソードありますか？
マツイ 好きな人ができたり、失恋みたいな経験はしました。
ハルは好きな人がいた時に寝る前に携帯の写真にチューしているのね。私に「見ないで！」って言います。アイドルは好きじゃなかったんです。アイドルは恋愛対象にならなくて、身近にいる人を好きになるんです。
カレッジ早稲田に行ってとってもとってもつらい体験をいっぱいしました。ハルが好きな男の子は違う子と付き合ったりして。でも私はそういう経験もして欲しいんですよ。やっぱり悲しいけれど、そういうの大事なことだと思う。ハルは悲しくて泣いているんだけど、私の前では決して泣かないんです。ヘルパーさんの前で泣いているの。ヘルパーさんが「ねぇ聞いた？」って言うんだけど私は全然聞いていない（笑） まぁでも、いいや、ヘルパーさんが聞いてくれているならと思っていました。ヘルパーさんがカレッジまで迎えに行った時に、ハルはヘルパーさんに話すんですよね。私なんかより、その辺は話やすいのかなぁって思う。
私は一緒にいてもハルの話をながらでしか聞いてあげられないから、だからもしかしたらあんまりハルと真剣に向き合ってあげられていないのかなと思っています。
オオタケ 成就した恋愛ってあるんですか？
マツイ 恋愛じゃないですが、今カレッジで違う男の子と友達としてけっこう会っていますね。すごいいい子なので恋愛に発展してもいいのかなと思っているけど、ハルは「毛深いから好きじゃない」と言うのよ（笑） 優しい子なのよ。ハルのダンスの発表会っていうと必ずどんなに遠くても来てくれて、でも彼は発達障がいがある子で、発表会に来てもゲームとかしちゃうのよ（笑） そんな感じです。
今はハルは「結婚して旦那さんが出来たらママと3人で暮らすから大丈夫だよ」って言うのよ。「あの…その時ママはどこで寝るの？」と聞くと「ママはハルの隣で寝ます」と言うのよ（笑） だからまだまだ結婚願望っていうかね。そういうのが実ったらいいなぁと思うんだけど。でも人を好きになるっていうことは、とってもとっても良かったと思う。ハルちゃんにとっては本当に青春だったかなって気がする。恋は実らなかったんだけど、とっても楽しかったんだろうなと思う。毎日がキラキラしていてね。普通の子が生活する高校生時代や大学生時代の経験がカレッジでできたんだなぁと思う。年下の子がいると「年下もいいんだよ～」とか言ってね（笑） それからしばらく誰に教えてもらったのか“年下の男の子”を歌っていた（笑）
オオタケ そういう意味でもカレッジは良いですね。すぐに働かずに過ごす時があるというのも良いですね。
マツイ 良かったです。そこで出会った経験や若い時にしかできない経験や学生時代の楽しさってあるじゃないですか。それがカレッジにはリアルにあるのよね。自分達でご飯食べに行ったり自由に過ごせる時間。ディズニーランドも自分達で行ったり。
その年頃の子が経験する、普通の当たり前にある自由や楽しみがこの子達には本当にないんだなーと、私は寂しく感じちゃいます。だから高校を卒業してカレッジに行かない子達は、土日は家にいてのんびりしているのかなぁと思う。
社会に出て、そのまま働いて、習い事あるならそれ行って…って、それって障がい者におさまっちゃうよね、って思うのね。普通の子と同じように楽しい時期が欲しいなと思います。
オオタケ 確かに、自分だったら高校２年生くらいで進路決めるなんて嫌ですね。普通の子が大学に行くみたいな、そのに時しかできない経験をしたいです。
マツイ そうよね。そういう青春の時期に、楽しい経験や失敗の経験をしたほうがいいと思うんですよね。
私はカレッジの中では失敗の経験も沢山させたい。待ち合わせを間違えちゃったとか、お金をこんなに使いすぎちゃったとか、友達と遊びに行っていやな思いもしたけど楽しかったとか。当たり前の経験ですよね。親に守られすぎない経験ていうのを…やっぱり、いつ親がいなくなるかわからないし。
いつまでも子供をみていてあげたいけど、年をとってくると体力もなくなるし、自分もボケちゃうかもしれないし。もちろん元気でいたけどね。だから、自分のことはしっかり言える子になって欲しいし、守りすぎない程度に子育てしたほうがいい。じゃないと何も出来なくなっちゃう。なんでもやってあげたくなっちゃうじゃないですか、かわいいし、手もかかるけど…でもやっちゃいけないんだなーと思ってね…
それと、色々と吐き出せる場があることは必要だなと思います。うちのハルの場合は、友達がいることがすごく良いです。カレッジに行っていたけど、卒業した後も友達関係は続いていて、たまに集まって飲みに行ったりしています。
あとね、アナ雪がすごい良かった。「ありのままで」というあの歌が「ありのままでいいんだ」と自信になっているみたいで。だから今は、色々私が言うと「だからなに？」みたいな事言うのよ（笑） 落ち込むどころか強くなっちゃったけどね（笑） あと「自分はできる！」と強く思うようになって。
あと草は刈りすぎてはダメです。でもね、私面倒くさくて忙しいから先回りして草を全部むしっちゃったの（笑） むしりすぎちゃったの。ここで迷っちゃいけないとか思っちゃって。でも今はそれは先にやりすぎちゃうのは良くないと思って、草ボーボーでそのままにしています。あまりヒントも与えないし、ハルちゃんが自分でその草をどうしようかと考える事がやっぱり必要だからね。
女の子の羞恥心や身だしなみはしっかり教える
オオタケ 羞恥心みたいなのっていくつくらいから教えましたか？
マツイ あのねー、羞恥心は親が言っていかないとなかなか難しくて。うちの場合はパンツ見えたら100円っていう罰金制にしたんですよ。
オオタケ あははは（笑） 見えるってどういう状態なんですか？
マツイ けっこう足を広げてしまうとか…やっぱりダウン症の子って体質で足が広がっちゃうのよ。女の子でスカートはかされるから。でもさ、どんなにつらくても足を組んで足を乗っけたりしてはいけないよって言って。それは100円って。あとね「見えると変なおじさんが寄ってくるよ」って言ったの。志村けんの変なおじさんみたいな人が来るよって言ったの（笑）そしたらそれは本人もすごい怖いみたいで。だから少し足が広がると「来るよ、変なおじさん」って言って。
オオタケ やっぱり教えないとだめ？
マツイ 教えないと自然と広がっていっちゃうんですよ。今はスカートの時は気を使っている。でも中学時代は足が広がっちゃう。小さい頃はワンピースの時とかはスパッツも履かせていた。そしたら本人は「これは見せパンだからいい」と言い始めたの。「いやいや、それはそうじゃない。見せちゃいけない。ちょろっと見えちゃうのはいいけど、お股まで見えるのはそれは女の子じゃない」って言ってね。それで漫画で好きな女の子のキャラクターがいたから「この子はそういうことやらない。そういうことしたらこの子は人気ないよね。」と言ったら「なるほど」って感じでね。テレビのアニメのキャラクターとかアイドルを使って、仕向ける感じ（笑） そうすると本人も「あぁそうか」となるんです。アイドルになりたいなんて言う時期もあったんだけど「あ、それやっている子は無理だね。まず話がこないね」なんてね（笑）
オオタケ 羞恥心は教えないといけないんですね。
マツイ なかなかねー。大人になるとまだいいんだけど。羞恥心が出たのは最近じゃない？私が用事があってハルの作業所に行ったら「ママ来ないでくれる」って言うようになった（笑）ハルの忘れ物を届けに行っただけなんだけど、支援員さんが見ていきますか？って言ってくれてちょっと見に行ったんだけど。それまで「マモちゃ～ん！（ママのこと）」って言っていたのに、作業所という仕事場に来られるのはいやみたい。私が「忘れ物を届けに来た」と言うと「ありがとうございます。もう帰ってください」って言うのよ（笑）
オオタケ 恥ずかしいのかな？中学生の男子みたいですね（笑）
マツイ そうそう（笑）帰ってくると「マモちゃん、もうやめてー」って言うもんね。
あと、なかなかできないのが、ヒゲ。女の子も鼻の下にヒゲが生えてくるじゃないですか。この処理ができないから。「今ドジョウみたいになってるから、ちょっと剃んなきゃね」って言ってやってるけど。本人は怖いみたいでね。
あと足の爪切りがね…ちょっと足の爪を切る感覚が嫌いみたいでね。爪切りは将来どうするんだろうって思う。
オオタケ ヒゲはね、永久脱毛がありますからね。でも足の爪はね…
マツイ あ、ヒゲはそうね！となると足の爪だよね。やすりにしようかなと思ったの。
オオタケ それはいいかもしれない！ネイルサロンはやすりですもんね。
ネイルはやったりしますか？
マツイ なんかね、しゃれっ気があんまりないんだよね。
変な所真面目なのよね。「お仕事中はしません！やっちゃいけません！」ってね。
オオタケ お化粧はしています？
マツイ 全然していません。基礎化粧品だけはやらせてしています。
「ひどすぎる、その顔。比べてごらん、ものすごくガッサガッサじゃん」って言ったらやるようになって。オールインワンタイプだけどね。
大変だよ～、女の子ってのはねぇ。美容室は前は私と同じサロンに行っていたんだけど、ハルちゃんにはもったいないから「ハルちゃんは1000円カットでいいよね」って感じで最初はヘルパーさんと行ったのね。ずっと同じ場所にしたから「そろそろ行ってくる」って自分で自分のお金で行っている。ちょっとずつよね。
オオタケ 金澤翔子さんが、ちゃんと眉毛も書いて、アイラインも引いて、口紅も、マニュキアをしていますよね。もしかしたら、ハルちゃんもあと数年したら目覚めるかもしれませんよ。
マツイ すごーい！そういう女の子になって欲しいよねぇ！
オオタケ そういうのをするだけで気持ちも仕草も女性的になるじゃないですか。それがすごいいいなと思いましたね。肌もモチモチ綺麗ですよね。すごい可愛いなと思います。
マツイ 化粧も自立支援でハルに一回やってあげたの。“化粧やってみましょう”って。化粧はなんかいやみたい。ダンスの時はやってくれるんだけど、終わるとすぐ取っちゃうね。
オオタケ お化粧は好きな子と嫌いな子がいるんですね。お洋服はどうですか？
マツイ お洋服はすごい自分でコーディネートしているの。パンツも毎日違うんだけど「水曜はこのパンツって決まっているから」とか言って（笑）「そ、そうなんだ、知らなかった」ってびっくりよね。
オオタケ お洋服の買い物は？
マツイ お買い物は好きだよね。でも太ってきているから着れるものが少ないから「痩せなきゃねー」って言って、痩せるために週に3回くらいカーブス行っていますね。私が行ってよかったから「行く？」って言ったら「行く」って。水泳も行っています。水泳はすごい好きで1キロくらい泳いでいる。だからそれはヘルパーさんと行っている。
オオタケ 水泳となると親はちょっと…もう付き合い切れないですよね（笑）
マツイ ムリムリムリ！
- ハルちゃんの子供時代
- ヘルパーさんとハルちゃん
- 携帯電話とハルちゃん
- ダウン症のある女の子の子育て
- マツイさんの仕事
- マツイさんが考えるダイバーシティとは
※この対談は2年前（2019年1月）に行いました。現在は年齢等の状況が変化しています。予めご了承ください。