マツイさんの仕事 -女の子の子育て-

突然の離婚でヘルパーの資格を取得したマツイさん。現在、放課後デイサービス管理者、特定非営利活動法人えがおさんさんの理事に。ご自身の子育ての経験を活かした障がい児支援の現場のお話もしていただきました。

マツイさんとオオタケさんのプロフィール

マツイさん
ダウン症のある23歳(2019年1月時点)の女の子ハルちゃんとミカちゃん(お姉ちゃん)のお母さん。シングルマザーになりヘルパーの資格を取得。現在、放課後デイサービス管理者、特定非営利活動法人えがおさんさんの理事となる。
ハルちゃんは、区立認可保育園→区立小学校支援学級→区立中学校支援学級→都立特別支援学校高等部→カレッジ早稲田→週3日福祉作業所(B型作業所)週2日一般就労をしている(2021年2月現在)。

オオタケさん
ダウン症のある8歳(2019年1月時点)の女の子マリちゃんのお母さん。仕事と子育てに奮闘真っ只中。思春期を迎えるにあたり女の子の子育てに不安。
マリちゃんは、新宿区こども総合センター 発達支援コーナー「あいあい」の親子通所グループ→私立認可保育園→都立特別支援学校小学部に在学中(2021年2月現在)。

きっかけは突然の離婚、専業主婦からハローワークでヘルパーの資格を取得

オオタケ 現在マツイさんは、放課後デイサービスのお仕事をされていますが、もともとそういった資格をお持ちだったのですか?

マツイ いえ。私は離婚をしてしまったので、それで働かなくてはいけなくなって。

ハルがいるので、いつかはそういう仕事をしたいなと思っていたんですよ。でもそんなこと言ってられなくて、今すぐ働かなくてはならないから。それで、飯田橋のハローワークに紹介されたのが、ヘルパーの資格が取れる学校でした。それがね、お金が出るのよ。そこの学校に行くのはもちろん無料なんだけど、その代わりに試験があるの。中学校程度の勉強ができないとダメなの。数学とか…因数分解とかけっこう難しかった(笑) それに合格しないとまず無理なんだけど、学校に半年間行くとヘルパーの資格が2級だけじゃなくて1級まで取れるんです。3ヶ月無給でね。学校は東京都がやっている施設だから設備がすごい贅沢でしたよ。本当に良い経験ができました。

職はツテで紹介してもらいました。だから入ってみるとけっこう知り合いが多くてね。やっぱり障がいの世界は狭いなぁと思いましたね(笑)

そこは障がい児者だけだったので老人はやっていなかったのね。けっこうみんなすごい勉強するんですよ。この子がどうしたらということをすごい話し合うの。夜遅くまで話し合いしてね…。

この子がどうしたらわかるんだろう、この子の気持ちはこの時はどう思ったのかとか、この子のお母さんはどうしたら気付いてくれるんだろうって。

オオタケ 皆さんヘルパーの資格を持っていらっしゃるんですか?

マツイ そうですね。だいたいヘルパーの資格を持っているんですけど、放課後デイは資格がなくても働けちゃうんですよ。ヘルパーの仕事はできないんですけど、指導員という形で働けるの。

オオタケ 私も調べたのですが、放課後デイサービスは児童指導員または保育士が最低2名以上必要で、うち1以上は常勤であることが規定ですよね。

※平成31年時点の規定で、障がい児の数が10名までの場合

資格がない人ばかりだとちょっと怖い気もします……今マリちゃんが利用している放課後デイサービスも、色々な経歴の方がいらっしゃる感じですが、幸い安心してまかせられています。

あと、送迎に時間を沢山かける悪質な事業者が問題になっていますよね。色々と大丈夫かなと思っています。

マツイ そうね、心配なこともあるだろうけど、帰ってきた子供の顔を見たら楽しかったかどうかわかるわよね。

オオタケ そうですね。

ところで私自身も52歳になり、今の仕事について色々考えています。人生の後半戦を仕切り直ししたいなと考えているんですよ(笑)

せっかくマリちゃんのような子が産まれたので、次はケアの必要な子に関わる仕事をしたいなと思い保育士の試験を受けよう思っているんです。

マツイ すごーい!そうなんだ…えらいね!

オオタケ でも…頭に入んなくって(笑) 切ないくらい頭に入らない(笑)

マツイ わかりますよ~(笑)

オオタケ 何かやりたいって思って。でも思っているじゃだめですよね。

マリちゃんがどこまで手が離れるか、と考えたり、手が離れるタイミングを見てやろうと思っていたんだけど、いつになるかわからないですよね。マリちゃんが自立すれば自分が働けると思っているといつになるかわからない。

今回ヘルパーさんとハルちゃんの話をうかがって、ヘルパーさんを利用しながら取り組めばいいのかと思いました。

マツイ ヘルパーさんはいいと思う。だって将来的にはこの子達が生きていく上でヘルパーさんを利用するわけだから。移動支援だけじゃなく、今から利用して行ったほうがマリちゃんの為にもいいと思いますよ。

オオタケ そうですね!

マツイさんはヘルパーの資格を取った後、どのようにお仕事に就きましたか?

マツイ 私がヘルパーの資格で働き始めたきっかけは人の紹介です。友達に経営コンサルをやっている人がいて「マツイさん、卒業したら自分の知り合いに聞いてあげるよ」と言ってくれまして。自分の経歴をメールで送ってって言われて送ったの。私は仕事したことないから「そうやって仕事を探すんだ」と思っていました。ハロワークで探すのかなと思っていたんだけど。

それで「えがおさんさん(当時はさんさん)っていう所の人が会ってもいいよって言ってるよ」と連絡がきました。一度も就職活動をしないでそこの人と会ってね。そこは、当時は居宅介護だけでした。看護師さんが医療ケアをしているんだけど、看護師が診てあげられる時間って短くなっちゃうんだけど、ちょっとのプラスの料金でなんとか医療ケアの必要な子を何時間も診てあげたいという思いが出発の事業でした。医療的ケアの子はどちらかというと超重症児です。鼻のチューブが入っていたり、人工呼吸器もついているし、酸素吸入を使っていたり、色々なものが入っているのを診るのが私たちの仕事です。

どんな子も当たり前のように生きていける、そのための黒子となって支えることがうちのモットー

マツイ その子達は言葉は話せません。でも言っていることがわかるし、その子達の持っている力みたいな、言葉は話せなくてもすごく出てくるものはあります。私たちは、そういう成長を信じています。「もう頭に脳がないから成長しません」って言われている子もいるんですけど、でもすごく成長しているの。お母さんが他の子と仲良くしていると、息を止めて急にサチュレーションを下げてくるの。「自分を見て!」って。

オオタケ そういうメッセージの送り方をしてくるんですね。

マツイ そうなの。だからどんな子も当たり前のように生きていける、そのための黒子となって支えることがうちのモットーなんです。ヘルパーが入って、看護師が入って、あなたを見ていますよ、というだけじゃなくてね。

ナースの考え方も「この子がグズッていて大変な時に買い物に行きたいけど今ママは行けない、ナースがいるけど今はこの子はママじゃないといやだと言っている」そういう状況で「自分が代わりに買い物に行ってあげればいいんだな」という行動ができる人を求めています。今この人が何を欲しいのか、というところを察知して動けることががえがおさんさんの精神なんです。

えがおさんさんは元々2人で始めました。一人は重症児のママだったんですよ。その子は亡くなってしまって、でもママは日本の社会を変えていこうとこの事業を始めました。

どうしてもえがおさんさんはすごい重症児が多いですから、毎年亡くなっちゃうの。だから、今を輝かせてあげようと携わります。例えば、親御さんのご希望があり、お預かり時にプールに入れてあげたことがあります。呼吸器ついている子のプールは、看護師も介護士も慎重にしなくてはいけないので、なかなか入れてあげることは少ないです。でも私たちは、どうしたら叶えてあげられるのかを考えます。シュミレーションをしたり、OTさんを巻き込み、どうしたら安全に楽しめるのかを考え抜きます。実際に入れてあげられると、ニコニコの笑顔がたまらないです。

私たちは、笑顔を輝かせてあげたいと思って、仕事にもボランティアにも取り組んでいます。年齢的にも体力的にもきつくなってきますが、この笑顔を見たくて「また頑張ろう!」とモチベーションにもなってます。

※2020年9月にえがおさんさんから書籍が発売されました。多くのお子さんの支援の物語がご紹介してあります。障がいのある子どもと家族の伴走者 えがおさんさん物語

みんな自分の子供のようになっちゃっている人もいるんですよ。えがおさんさんには“ファンクラブ”という考え方があるんです。その子のファンクラブに入る形で。だからその子の担当リーダーはファンクラブの会長みたいにな感じになっているの(笑) 自分の子を守るために「私は絶対この時間はだめ!この子がいるから!」みたいな感じになるんです。あとはファンというのは楽しむこと。やっぱり自分も楽しまないとね、仕事と思わないでね。子供からもらう笑顔ってね、自分の子でわかるとおり、他人の子もみんな可愛いのよね。

自分の子育ての経験を踏まえ、子供と親御さんのニーズに応え、自立していくためになることを色々とやってあげたい

マツイ 放課後デイサービスはハルちゃんが小学生・中学生の時代はありませんでした。

子供の自立をさせてあげることって、色々とやる事があるじゃないですか?

例えば、ハルちゃんはいつもスニーカーがマジックテープのスニーカーだったんですよ。スニーカーの紐を自分で結べなかったので、履かせてあげられなかったんですよ。ハルちゃんは普通の紐のスニーカーが履きたくて…でもいつもマジックテープのスニーカー。練習をしてあげられる時間がないし、こっちもイライラしちゃって「何度言ったら!!ここ、これ、こうでしょう!!」って我が子になると優しくできない(笑) でも、会社の若いヘルパーさんと自立支援みたいなのをやってみたの。学生もヘルパーの資格を取っている時代があってね。

エプロンの後ろで結ぶ紐結びとか、制服のリボン結びとか、男の子はネクタイの結び方とか、靴紐とかすっごい色々教えてもらったの。それですごくできるようになって、ハルちゃんの自信になりました。靴紐も結べるようになりました。そしたら「普通のスニーカーが欲しい」って言うようになったの。今までは本人も、できないことにじれんまがあったし、ママに靴紐のスニーカーが欲しいと言えなかったのね。

なので、ここの放課後デイサービスではちょっとしたそういう自立を目指しているんです。今一番力を入れているのは小銭を使って買い物をすること。1000円は使えるんだけど、小銭をどこまで使いこなせるのかっていうのをやっています。

オオタケ そういうのはすごい大きな自信になりますよね。

マツイ そう。だから自分の子にやってあげられなかったことを盛りだくさん入れているの(笑)

アイロンがけとか、ぞうきんの絞り方とか。親が面倒くさいと思うことがあるじゃないですか。オムツも取れていない子もここの放課後デイサービスで頑張って何人か取りました。タイマーかけて何分たったら行くよーという感じで。親がちょっと心が折れそうな自立のお手伝いができるといいなと思います。本人がそういった「自分でできた」というのがあると、自信もつくしね。そういうのができたらいいなと思ってやっています。身体はきついんですけどね、でもついやってあげちゃうのよ(笑)

オオタケ ありがたいですね…自分の子には丁寧にできないです…

マツイ ね、そうでしょ、自分の子にはね!初めは優しいのよ(笑) でもだんだんとね、声もね、なんかね(笑)

オオタケ お店で人を待たせている状況とかだと焦るし。だんだん軍隊みたいになってきちゃう(笑)

マツイ そう、なんとなく声がね(笑)「ありません!」「もう二度と買いませんから!」とか言っちゃいますよね(笑) 私も何度もそういうことがあったから。

だから、他人に教えてもらうと本人も喜ぶし、やっぱりいいことだなぁと思うね。

あと、うがいを教えてあげています。けっこううがいができないのよね。ぐちゅぐちゅぺはできるけどガラガラができないのよ。そういう毎日の事ですよ。

そういうなんでもないような事だけど、自立していくのに必要なことって絶対あるんですよね。そういう自分が子育てしてきて大変だったことをのせてあげるとたぶんいいだろうなと思っています。スタッフは障がいを持っている子のママが多いんですよ。ぽけっとの会のスタッフもいます。だからみんな熱いのよ、子供の気持ちがわかるし。ヘルパーしながら子供に「わかるよ、そうだよ、つらいよね」ってね(笑)

やっぱり成長するけど、甘えてくるし…放課後デイサービスとかやっていると「かわいすぎるぜ!」ってなる(笑)

ちょっと大きくなった男の子でさえ学校で何かあると甘えて来る。いつもママに「絶対に女性の人に抱きついてはいけません!」って厳しく言われているんだけど。もうそんなこと全然!でもそれで元気にお家に帰れたらいいなと思っているんです。学校でいやなことがみんなあっても、数時間しかいなくてもものすごくみんな甘えてきて。その場その場でキャッチしてあげて。甘えさせる時は甘えさせる。そうじゃない時には正すし。それで、ママとも連携して「今日なんか泣いていたよ。でもだいぶ落ち着いたと思うよ」って連携だけはしてね。みんな色んなことでね、戦っているんですよ、子供は子供なりに、学校では学校でいやな思いもするし(笑) みんな可愛いですね。どの子も可愛い。そして笑顔になってくれるとやっぱり嬉しいかな。「来て良かった、楽しかった」って帰ってくれるのが。

オオタケ なるほど…

やっぱり、子供も親と違う人格なので成長するにつれて親に言いたくないことがあるんでしょうね……でも産まれてから母子密着で生活していると、まだそんな日が来る気がしません(笑) マツイさんの所の放課後デイサービスのように、親とは違う大人との関係の中で解消できるというのは良いですね。例えば思春期に子供の事をすべて知れなくても、他の大人がキャッチしてくださると安心だし心強いです。

障がいがあっても健常のお子さんと同じように、心と体の多感な時期がありますが、母親としてどうやって向き合っていけばいいのか今から不安があります。誰に相談すればいいのか難しいですよね…

マツイ そうだよね。だから、うちの放課後デイサービスで色々相談されますよ(笑) これはうちが相談されることかな?(笑) みたいな感じの事をね。

例えば「好きな人がいる」とか。私たちもそうなんだけど「好きな人がいる」みたいな生きがいがあることでこの子達も仕事を頑張れる。だからそういう事も人として大事な事ですよね。障がいのある子は小さい時は目標があって生活するじゃない?でも大人になってからは生きる目標を持っていない人が多いのよ。だから「好きな人がいる」という事も、より良く生きる上で大事な事だと思います。そういったことも考えつつアドバイスをしています。

あと、この子達は学校を卒業すると、日々の細かい変化をキャッチする人が急にいなくなるんです。就労先なんて忙しいからそんなに細かくキャッチしてくれない。だから気が付いたら退行していたり…ということもあるんですよ。だから、放課後デイサービスを卒業後も、ヘルパーさんなど、家庭以外でもキャッチできる環境があると良いと思いますよ。

区切り線
  1. ハルちゃんの子供時代
  2. ヘルパーさんとハルちゃん
  3. 携帯電話とハルちゃん
  4. ダウン症のある女の子の子育て
  5. マツイさんの仕事
  6. マツイさんが考えるダイバーシティとは
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※この対談は2年前(2019年1月)に行いました。現在は年齢等の状況が変化しています。予めご了承ください。